すっとこどっこい

あることないこと

ズダ袋を公務員に引渡したこと

夜道に、ズダ袋が落ちていた。

バイト帰り、10時半。

街頭も少ない住宅街。

横を通り過ぎる時にチラリと見た。

自転車の車輪。

そこから伸びる足。

…足?

自転車に跨ったままの体勢で、おっさんが、車道に転がっていた。


静かに自転車を横付けし、おっさんに声をかけた。

「大丈夫ですか?!

聞こえますか!!」

返事なし。ただ、荒い呼吸音だけ。

119番をして、自販機の住所を伝えた。

これはツイッターで学んだこと。あんなゴミ溜めにもたまには役に立つことが書いてあるもんだ。

しかし古い住所だったらしく何度も聞き返される。

そんなことをしている内に母娘がすっ飛んできた。

「私は119番してるので110番お願いします」

自分が冷静すぎて焦ってきた。

なんとか場所を伝えおっさんに声をかけ続ける。

その間通りかかった人たちはみんな通り過ぎていった。

男なんて薄情なもんだ。

「血。頭から血が出てる。」

娘が言うが、私には見えなかった。

逆にそれが良かったのかもしれない。

通報を終えたおばさんは娘を家に置きに一度その場を離れる。

今度は近所のおばさんがすっ飛んできて、車道に伸びたズダ袋が轢かれないように車を置いてくれた。

救急車から電話。

『お酒くさいですか?』

「すっごいくさいです」

…なんだか寝息に聞こえてきた。

そんなことをしている内におっさんが起きた。

立ち上がろうともがき始める。

「おじさん、救急車呼んだからさ、」

「だぁいじょうぶ」

「大丈夫じゃないから呼んだの。怪我してるよ?」

「だぃぃじょぉぶ」

私の膝をベタベタと叩く。

「…頭から血が出てるよ」

やっと気づいた。

縁石の角から滝のように血が流れて、おっさんの肩の辺りで溜まっている。

「痛くねぇもん、だぁいじょうぶ」

そらおめーが酔っ払ってるからだよ。

おっさんは頭を撫でた右手をかざして「ほぉら出てない」と言った。

ぶつけたのは左。

人間酔うと痛覚がこんなにバカになるのか。

もがくおっさんと格闘する小娘。

「ちょっと寝てようよぅおっちゃん」とやたらフレンドリーな小娘と

「だいじょうぶ」しか言わないおっさん。

コントみたいな光景だっただろう。


自転車に乗ったおまわりさんがそのコントを見に来た。

血の量にぶったまげた若いおまわりさんが「動かないで!」と怒鳴った。

おっさんは「だいじょうぶ」しか言わない。

「大丈夫なわけないでしょ!!」

続けて救急車。

「だぁいじょぉぶ」

「大丈夫じゃないってお父さん」

そんな格闘を尻目に事情を聞かれた。

フルネーム、住所、電話番号、生年月日と学校名。

もうちょっと動揺すべきなんじゃないか、と冷めた私は考える。

「おっちゃん、大丈夫ですかねぇ」

「大丈夫って言ってるけどね」

もがくおっさんと押さえつける公務員たちを見ながら帰った。

時間外労働だ。

疲れた。