すっとこどっこい

あることないこと

手のこと

 

高い寿司を食べにいった時、人生で初めて白魚を見ました。
それらはずるりと軍艦からこちらを見上げていました。
こっち見んな
箸で軍艦を持ち上げる私の指を見た同行者がふと、
「指だ け は 綺麗だな」
と呟きました。
「手だけは」だったかな。

 

私はコンプレックスの塊ですが、自分の手だけは気に入っています。
ちいさくて薄い手のひらと、
球技をしていた感のない、小さなペンダコがある指。
そのサイズのせいでボールは片手で持てないし、
ギターは弦に届かないし、アルトリコーダーは低い「ド」が出ない。
メリットはあんまりありませんな。
高校生の時にめちゃくちゃモテる子がいたのですが、
ひそかに私は「手だけは勝ったな…」と思っていました。
他は全く足元にも及ばないんですけど!

 

私はバスケ部に所属していて、爪は短く切りそろえておくものでした。
大学生になって「よぉし、綺麗に加工しちゃうぞぉ!」と意気込んでいましたが、結局そんなことはしませんでした。
バイト先が飲食店ならともかく本屋だったんですけどね。
指の腹側から爪の先が見えないくらいに切ります。
レジやキーボードにカタカタ引っかけるし、
見目もよくないですからね。
それを知った母は「切りすぎだ」と驚いていたのですが、みなさんはいかがですか?
就職活動をし始めたころから、少しだけ色がつく紅をさすようになりました。
これはこれでとても綺麗に見えるので気に入っています。
新しく入る会社はどうなのかわからないので、今は素爪でいますけど。

 

爪を切ると手が更に小さく見えます。
まるんとした指先がかわいいと思って見てしまいます。
なんで自分でもこんなに気に入っているのかわからないんですけどね。

 

以前バイト先の本屋にちゃきちゃき商人、といった風貌の老婦人がいらしたことがありました。
私が小銭を数えていると時そばのネタを放り込んでくるお客さんで楽しかったのですが。
その、皿にのる小銭を拾う私の手を見て、
「綺麗な手ね。
苦労を知らない手。」
とぽつりと言われました。
その老婦人の手は歳と、恐らく苦労が刻まれていました。
私は自分の手が好きです。
髪の先からつま先まで、自分の全てが嫌いな私の唯一の好いところ。
それでもあんまり傷つけることに躊躇がありません。
本で切っても傷が残ることについて気になりませんし。
ホクロができた時には激怒しましたけどね。
……と久しぶりにマジマジ見たら消えていました。
やったね。

 

これから段ボールや本、紙、機械を扱う仕事をします。
初めは慣れていないし、私はどんくさいのでたくさんケガをするでしょう。
多分私は、そんな働く手を愛せると思うんです。
傷をつけて、皺をつけて、
いつかあの老婦人に「素敵な手ね」と言ってもらえれば嬉しいです。

 

 


……わがままを言うと、そんな私の手を握ってくれる人が現れるといいなぁ、なんて。

 

 

 

五月。

人に触れる機会があった。

「ささくれがあって痛い」と言われた。

人生なんてそんなもんだ。