すっとこどっこい

あることないこと

おかしくなった心のこと

会社を休んだ。

起きた瞬間から、これはまずいなぁと感じた。
そもそも起き上がれない。
感情を伴わない涙がべろべろこぼれてくる。
頭痛が痛い。
どうにかこうにかシャワーを浴び、着替え、化粧をし、
上司に電話をかけた。

普段ムスーとしている上司は「大丈夫?」と「大丈夫だから」を繰り返していた。
部署が新設されて4、5年一緒にいる先輩たちも、上司のしょんぼり顔は見たことがないらしい。
申し訳なさ過ぎて、余計に涙がでた。


家から5分くらいのところに精神科があるらしい。
要予約(電話のみ)という高ハードルに、今まで挑戦することもなかったが、
こうなってしまった以上は仕方がない。
受付開始と同時に当日は無理だろうが、電話をかけた。
当日はおろか、初診は1ヶ月先まで受け入れられないと言われた。
この小さな町でそんなに繁盛するのか、と驚いた。
しどろもどろになって電話をきった。
これ、死んじゃうやつじゃない?
そもそもそんなところを受診しようなんて奴は大概精神状態がヤバいものだろう。
それらの人に電話で予約をとる、という高度なことをさせるうえに、断る。
普通に、ビジネスライクに。
隣町にもう一軒病院があるとネットに出てきたが、
心がボッキリいった私にはどうすることもできなかった。

こんこんと眠っている。
たまに思い出したように起きて、また眠る。
ちらと鏡でみた自分の顔は土気色だった。

 

自分が世界のすべてを憎んでいることに気付いたのがきっかけだった。
何もかもに腹がたつ。
職場すべてが敵だ。
使えない人間だ。
私の指示を汲まない愚か者たち。

慢性的な頭痛と、胃からこみ上げる不快感。
感情のコントロールができない。
何に依るかわからない涙でいつも目が潤んでいる。
人の話が理解できない。
言っていることはわかるのに、それに自分がどう返答すればいいのかわからない。
突き刺すような胃の痛み。
人と話したくない。
目をみないでくれ。
私はおこっているんだ。
なにも考えられない。

汚れていく部屋。
ごみ溜めの中でひとり。
着る機会もないのに増えていく洋服。
本を読むのが億劫になった。
短編やエッセイをよむのがいっぱいいっぱいだ。
カーテンは一週間開けていない。
テレビもずいぶん見ていない気がする。
自炊ができず、浪費される食費。

家にいる時間のほとんどは眠っている。
寝ている間は私は自由で
たびたび会える、死んだくろに似た子うさぎの手触りを楽しむことができる。
暗くなっていく部屋で、無為な一日を過ごしたと後悔し、
帰宅してすぐにもぐり込んだ布団の中で、働いて眠るだけの自分を嫌悪する。


なにがいけなかったのだろう。
残業は一日数時間だ。
残業代もでる。
手取りは15万円だが、それ相応の仕事なのだろう。
朝と夕、1時間ずつお金の発生しない業務時間がある。
同僚がひとり、栄転して人数が減った。
補填はまだ先だ。
ライフワークバランスを重視する女は、休憩時間を満喫する。
私の昼休みは20分だというのに。
20年働いているのになにもできない。
それなのに指揮権を誰にも譲ろうとしない。
最近来た中年男性は私の上司らしい。
よくわからないことを言う。
業務のすべてが他人事で、
やってあげます、やってあげましたからあとはどうぞ、という感じだ。
じゃああの人は他人なんだろう。
男の先輩はいつもキレ散らかしている。
女の先輩は諦めたように一歩引いている。
中途の同期はニコニコと腹の読めない言動をする。
私の胃ばかりをピンポイントで心配してくる。
上司は好きだ。
だけど上司にすぎない。

こんなに楽な仕事だというのになにが不満なんだろう。
ここで壊れてしまったら、私はどこにも通用しないだろう。


ああ、受診したかった。
この痛みに名前をつけてほしかった。
レッテルを貼られて楽になりたかった。


また眠くなってきた。